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「全カード」が米の手に

イランとの対立
 ▽6月下旬―イランが米無人偵察機を撃墜。米は報復攻撃を計画したが、直前に断念。代わりに最高指導者ハメネイ師も対象に追加制裁。

 ▽7月1日―イランの低濃縮ウラン貯蔵量が核合意で規定された上限を突破。

 ▽同3日―ロウハニ大統領「7日以降はウラン濃縮を合意の規定を超え必要な水準まで高める」と言明。

 情勢緊迫がどれだけ続き、どこへ向かうのか。即断は無理でも、「カード」はすべて米の手中にある。

 イランはオバマ米前政権の「古き良き時代」を懐古しきりのはずだ。同政権はイランの将来の核保有を保証したのも同然の合意に同意し、17億ドルもの現金(使途を追跡できないようにイラン側が要請)を極秘に空輸した。

 イランは目下、より左派の米新政権は親イランになると見て、2020年の米大統領選で社会主義者サンダース氏、リベラル派のウォーレン上院議員、バイデン前副大統領の3候補の動向に注目している。

 イラン当局者は既に、ケリー前国務長官と極秘に会談し、リベラルのファインスタイン上院議員とも接触。トランプ大統領が退任後、同氏が18年5月に離脱した核合意を復活させる方策を話し合った。

 トランプ氏の大統領選の勝因の一つは、中西部の民主党支持州を共和党支持に転換させる戦略で、その一つが中東への介入を縮小する公約だった。

 イランは大統領選の前にトランプ政権の頓挫を狙っている。米国を挑発して実際の戦争になれば、それは米国では不人気なので、トランプ氏敗北につながるとの計算だ。

 だが、世界の様変わりは凄い。米国は世界最大の産油国、天然ガス産出国であるばかりか、間もなく最大のエネルギー輸出国になる。もうイラン沿岸に近寄る必要もなくなる。イスラエルなど中東の同盟国もエネルギー面で他に依存しない。

 そして米国には時間的な余裕があるが、イランは緊張をエスカレートさせなければ国家破滅に直面する。

 もし、イランがタンカーや米資産への攻撃を始めれば、トランプ氏は対イスラム国(IS)への戦略・ドローンによる断続的空爆を再演するだけでいい。パイロットを失うこともない。地上部隊の投入は避け、本格的空爆にも出ないことがカギだろう。

 イランがシリアやパレスチナの代理人を使って、イスラエルとのトラブルを扇動したり、米欧でテロ事件を起こす可能性はある。

 しかし、両国の「チキンレース」では、米国がすべてのカードを握り、イランには1枚もないというのが真実である。

 なぜなら、イランは友人も資金も失い、緊張をエスカレートさせるしかない。一方、米国は自国を弱く見せることも、開戦することもなく、さらに、イランに多大の能力を与えた核合意に責任がある政党の政権復帰を保証することもなく、問題に対処できるのである。

草野 徹(外交評論家)

 

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